第3部 私のメインフィールド
今、生活しているのは築90年ほどの古民家です。この古民家を選んだのは、5つの理由がありました。学生の頃からスキーが好きで、スキー場に近い所に住みたい。日本酒の蔵が近所に3つある。子どもの医療費が高校卒業まで無料。薪ストーブを入れたかったので、「煙害」が問題になりがちな密集地ではなないところ、原木が手に入りやすいところ。そう、自宅の目の前が里山です。里山ということを意識はしていなかったのですが。今となっては、住みたい場所が里山の側でした。
そして、今では徒歩30分、車で10分圏内がメインの仕事場となってしまいました。これは偶然としか言えないのですが、私が園児らを連れていく里山は、以前私が所属していた地域振興団体が実質的な管理をしている、「瀧浪フィールド」と呼ばれている里山です。その瀧浪フィールドに道を挟んで隣接している大学院でも仕事をしています。教授にお声掛けいただき働いているのですが、先端科学技術を謳う最先端を行くビル群の中にオフィス(研究室)があります。パーテーションに仕切られたオフィスで、外国語が普通に飛び交い、オンラインでの打ち合わせ、主にパソコンに向かう仕事環境と直線距離で100mという「紙一重」で、両極端なアウトドな仕事のバランスを楽しんでいます。
さて、この瀧浪フィールドは、いわゆる薪炭林の里山で、山中には炭窯の跡などもあります。私も年に3回ほどは草刈りをしていますが、地域振興団体の構成の活動のおかげで、散策路がメンテナンスされています。この散策路を切り開いた頃は、歩く人も少なく、頻繁に草刈りをしていましたが、最近ではメインロードとなる尾根沿いの散策路は踏み跡がしっかりとし草刈りは、ほとんど必要なくなっています。台風などの強風が吹くと、樹木が倒れたりしていることもあるので、チェンソーやノコギリを使って除去することもあります。
園児らがやってくる集合場所は、県の施設を利用しています。そこの駐車場と芝生広場を使わせてもらっています。たまにトイレをお借りすることもあります。瀧浪フィールドまでは、先述した大学院よりもさらに距離が短く、森の入口までは50mほどでしょうか。芝生広場でアイスブレイクや説明をしてから森へ探検に出かけています。瀧浪フィールドで私が利用しているのは、主に尾根の散策路で、入り口と出口を分けています。入り口は、サイエンスパーク東口、出口はサイエンスパーク西口とし、大人の足では約30分程度の距離です。往復してくると持ち時間に余裕がなくなるので、園のバスを西口で待ってもらうようにしています。
この「瀧浪フィールド」は、石川県の一級河川手取川の丘陵にあたります。余談ですが、手取川は白山を源流としていますので、「白山市」は白山山頂の海抜2700mから旧美川町の海岸の海抜0mと、2700mの標高差があります。私が勝手に師と仰ぐ小野木三郎先生的に言えば、「ステップ地帯〜ツンドラ地帯の日本出張所があり、日本良いところ!」となります。つまり、直線距離でたった45キロの距離で、地球上のステップ地帯〜北極圏ツンドラ地帯までおよそ3000キロの植生を経験できるほど生物の多様性が豊かなところなのです。閑話休題。植物のマニアには手取川はグリーンカーテンと呼ばれているようで、日本の北限の植物と南限の植物が混じり合う地帯と知られているようです。つまり、植生が多様なところです。近隣の里山も含めれば5〜600種類程度の植物が存在しています。
植生が豊かなフィールドなのですが、15年ほど前までは電力会社の担当者が高圧線鉄塔を点検する時くらいしかフィールドに人が入ることがありませんでした。利用価値がなかったからです。70年ほど前までは、地域の住民が集落から集落への移動に使ったり、薪炭の材料としてドングリ(コナラやミズナラ)、アカマツを切り出していたようです。その他の樹種も一緒に切られたようで、切り株から萌芽した枝が育ち、株立の樹木もたくさんあります。先述したように、その後15年ほど前から、地域振興団体が散策路の整備を行い、薪や炭を販売して活動資金に充てるために間伐や下刈りを行いましたので、比較的には明るい里山に戻りました。
瀧浪フィールドには動物もいます。私が目視で確認したのは、ニホンノウサギ、タヌキ、アナグマ、ホンドリス、テン、カモシカ、足跡などの痕跡を確認しているのは、イノシシ、ネズミ、アライグマ、ハクビシン、痕跡は確認していませんが、存在すると言われているのが、ツキノワグマ、ニホンジカです。
比較的恵まれた自然環境だと思いますが、デメリットもあります。崖を転げ落ちて大怪我をするというほどではないですが、尾根道以外は斜度がきついので、初めて来る園の先生たちは嫌がります。当たり前ではありますがトイレがない、天候が悪くなった時に逃げ込める施設がないところです。その分、天気予報には敏感になりますし、装備にも注意をします。森に遊びに来る子どもたちは、服装のミスマッチがなければ、雨がふっても、雪がふってもご機嫌に遊んでくれています。たまに、トイレが我慢できずにおもらしする子どもいますが、どこででもおしっこができる子になって欲しいとも思っています。
また、公共交通機関であるバスが1日に数本しか走っておらず、スタッフは自家用車で、園児らは園バスか観光バスや市のバスでやってきます。このフィールドには、1時間ほどかけて園バスで来てくる保育園もあります。ちなみに、このフィールドから一番近い公立の園は、私とは関係なかったためか、この森に来ることさえなかったのですが、一昨年から縁ができ定期的に森に遊びに来てくれるようになりました。園バスを持たない園からの要望にはなかなか応えることができず、なにかいい方法はないかと思っています。
最近では、歩く方も増えたようで、踏圧のおかげで、草刈りをする回数も過去と比較すると減ってきました。企業の社会貢献の場面にも利用されており、森林整備活動にお手伝いをいただけることも増えてきています。
第4部 資格・知識・経験につづく